デジタルの力でスポーツ界の危機を救う。
NFTで推進するストラテジー

シーホース三河
プロスポーツ界が抱える課題解決のため、プロスポーツクラブ向けNFTコンテンツ運営支援サービスを開発したイグニション・ポイント。そのサービスを活用する日本プロバスケットボールチーム・シーホース三河が運営するNFTサービス「MatchUps(マッチアップス)」ついて紐解きます。

話し手
シーホース三河株式会社 マーケティンググループ BCチーム 中野佑氏

聞き手
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業本部 デジタルユニット シニアマネージャー 鈴木
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業本部 デジタルユニット コンサルタント 大山

スポーツ×デジタルの黒子。NFTサービスの試み

2020年コロナ禍以降、スポーツ観戦が大きく制限されました。無観客試合が行われるなど、ライブ観戦は急激な環境変化への対応を余儀なくされました。

選手のサイン会や撮影会の制限、グッズ売上の低迷など、ファンとの接点がなくなってしまっただけではなく、プロスポーツクラブは収益源も喪失。

その中で、イグニション・ポイントがスポーツ界にできることはないのかと始めたのが、2022年9月にローンチした新サービス「NFT SCENES(エヌエフティーシーンズ)」。プロスポーツクラブ(団体)向けのNFTコンテンツ運営支援サービスです。

ときをほぼ同じくして、日本初のプロバスケットボールリーグ「Bリーグ」に所属するシーホース三河のサービス「MatchUps(マッチアップス)」が同年10月にローンチされました。シーホース三河の専用NFTサイトで、NFT SCENESをベースに開発。第一号案件としてイグニション・ポイントが支援しました。

新サービスに対してシーホース三河に所属する長野 誠史選手は、期待感を込めて次のように話します。

長野氏 「新型コロナウイルスへの感染を防ぐため、なるべく人混みを避けているファンのみなさまに、試合の臨場感や世界観を試合後すぐに追体験いただけるのがこのサービスの魅力だと思います。

僕自身も祖母が施設に入っており、試合を観たくても観に来られない方がいることを知っています。 病気や行動制限で会場に足を運べない方、バスケットボールをあまり知らない方も関係なく、すべての方が楽しめるデジタルコンテンツになると思います。

また一選手として、自分の子どもができたときに『父さんこんなにかっこいいプレーができたんだよ』と見せられるのが楽しみです」

デジタルの力・NFTを活用したサービスを通じて、ファンとの接点を増やし、エンゲージメントを高める施策としてプロジェクトは始まりました。

MatchUps(マッチアップス)

NFTで実現する、「スポーツ×デジタル」の戦略

NFTとは、Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略で、改ざんが困難でコピーができない「証明書付」のデジタル資産を指します。

これまでのデジタルデータはコピーや改ざんが容易でした。ところがNFT技術を用いれば、イラストや画像、動画などのデジタルデータが、オリジナルデータであると証明することができます。

たとえるなら「菓子などにおまけで付いてくるカード」のデジタル版とも言え、デジタルのカードを「限定品」として取り扱えます。そのため、NFT所有者同士が取引する2次流通市場で売買ができ、よりレアものであれば所有欲が刺激されてプレミアムが付く可能性もあります。

NFTサイト「MatchUps」では、シーホース三河所属選手による試合中のプレーシーンや、記憶に残る名シーン、記録達成の瞬間、オフショットシーンなどの画像コンテンツをラインアップ。ファンがNFTとして「自分だけのコレクション」を購入できます。

NFT SCENESの開発責任者であり、MatchUpsの開発・支援にも携わったイグニション・ポイントのデジタル・ユニットでシニアマネージャーを務める鈴木、幼少期からバスケットボールに親しみ、スポーツビジネスにかける想いは人一倍アツい男です。

スポーツビジネスでなぜNFTだったのでしょうか。その理由を次のように説明します。

鈴木 「アメリカのプロバスケットボールリーグNBAのNFTが、1点で数千万円の高値が付くなど投機的な側面もありながらも世界的に盛り上がりを見せ、NFT市場が立ち上がりつつあります。

ファンになると、アイドルの推し活などと同様に、好きな選手のグッズや限定品を集めたいという欲求が強まるのが人情。このファン心理は、コレクション性を持たせられるNFTととても親和性が高いんです。

一方でNFTは、プロスポーツクラブとして、ファンがデジタルデータに触れる顧客接点の入り口にもなり得ると考えています。NFTを介して運営クラブは自分たちのファンの購買データ等を自ら収集・分析でき、施策を打てる点が何よりのメリットです。データを起点にして、クラブ自体が単体で直接施策を打てれば、グッズ販売やファンに伝える情報のパーソナライズにも活用できると考えています。

ファンの求めるニーズに適切に応えられるようになれば、クラブへのより高いエンゲージメントと収益UPを期待できると私たちは考えています」

NFT SCENESの最大の特徴は、その導入コストを低く抑えた点にあります。予算が潤沢ではないクラブが多い中、サービス導入してもらいやすいようにオプション追加以外は基本、初期費用が無料で始められ、最短で当日中に試合の画像や動画などをNFTコンテンツとして販売できるなど、徹底してスポーツクラブ・ファーストな設計思想を貫いています。

鈴木 「スポーツチームが自身でNFTを発行できるプラットフォームはほかにも存在しますが、発行までに数週間から1カ月はかかるケースもあります。NFT SCENESでは、発行できるまでの時間を最短にして、当日中にファンが現地観戦(またはオンライン観戦など)したときに感じた興奮が冷めないタイミングで購入できるように考えています。

また、クラブに対する新しいマネタイズポイントを創りたかったので、クラブが保有する選手の写真や動画といったデジタル資産をうまく活用し、クラブがファンに販売する1次流通だけでなく、2次流通での売買時にもクラブや選手へ手数料収入が入る設計にしました。これはNFTならではですね。

さらに、クラブがNFTを発行するためのUI(ユーザーインターフェース)を簡素化することで、簡単にNFTを発行できる手軽さ、運用負荷の低さを実現しました」

一方で、ユーザーにとっての使い勝手の良さや体験のしやすさも追求しています。

鈴木 「1次販売だけでなく、ユーザー同士で売買が可能な2次流通のマーケットプレイスの使いやすさも考慮しています。NFTをご購入いただく際は、誰でも手軽に2次流通マーケットプレイスに登録・購入ができるよう、汎用性の高いNFTプラットフォームを活用しています。

またMatchUpsでは、お子さんを含め誰もが手の届く価格設定に。他社のプラットフォームではデザイン費などがかかるため1枚5,000円〜1万円程度が相場なのに対して、MatchUpsは平均500円程度の価格設定で、レアリティに応じて上限を2,000円にしました。

普段、ファンがグッズを購入する価格帯なども参考に設定。NFTそのもので収益をあげるというよりも、デジタルの入り口として次につなげたいとの想いもありました」

ここまでの戦略設計は『一見スマートに見える』かもしれません。しかし、いくつもの課題にぶつかりながら、アイデアを出し合い協業しながら、1年半の歳月を費やしてサービスローンチにこぎつけています。

MatchUps(マッチアップス)

NFTの認知の低さ、予算と法律の壁を越えて協働して前に進む

シーホース三河とイグニション・ポイントはまず、自主勉強会からスタートしました。コロナ禍が、スポーツ観戦だけではなく観覧を前提としたエンターテイメント業界全般に、黒い影を落とし始めたころでした。

プロスポーツの醍醐味はやはり、現地で観戦したナマの迫力にあります。プロの選手のスピードやパワー、臨場感を味わうことは今のところデジタルでは再現できません。

鈴木 「目まぐるしく変わる試合展開や熱狂、リアルタイムで起きるドラマの緊張感を会場全体で共有し、一体となって応援する楽しさ、開放感。ライブ観戦の制限でそういった顧客満足度が低下してしまう危機感をシーホース三河さんと共有し、どんな打ち手を立てられるか。そんなところから、勉強会を始めました。

ところが多くのスポーツクラブには、トップオブトップを除いて、潤沢な資金があるわけではありません。そのため、限られた予算の中、国の補助金などの活用を模索しながら、プロジェクトを進めました

さらにNFT SCENES担当メンバーであり、イグニション・ポイントのデジタル・ユニットでコンサルタントとして活躍する大山は次のように続けます。

大山 「NFT自体の認知度は一般にはまだまだ低く、国内市場がないと言ってよいほどの規模感です。また、法律も未整備で、弁護士さんに相談しながらも新サービスが法律に抵触するのかの判断がつかず、本当はやりたいけれど突き進めず保留にしているサービス領域もあります。

加えて、プロスポーツ業界は、関係者にアプローチするのが非常に難しいことも今回わかった点の1つです」

シーホース三河側でプロジェクト責任者を務めた堀江 隆治氏は「イグニション・ポイントは、実現可能性の有無を問わず企画を積極的に提案してくれました」と目を輝かせます。

堀江氏 「企画やビジネス面、システム構築、管理などを、人員が少なく検討しきれない中、主体的に支援していただいてとても助かっています」

鈴木 「サービススタートの決裁を得るだけで1年以上かかってしまう企業がある中、アジャイル開発的にスピーディに判断しながら進められたのは、新しい技術に前向きなシーホース三河さんとの協業だからできた点も大きいと感じています」

MatchUps(マッチアップス)

スポーツのデジタル化と言えばイグニション・ポイント

ローンチ後の初試合での結果は、残念ながら初期想定を下回り、ファンの方々のNFT自体に対する認知が想定以上に低く、課題はまだまだ山積みです。シーホース三河でブースタークラブを担当するマーケティンググループBCチームの中野佑氏も、メルマガやSNSを通じてNFTとの接点が増えるプロモーションを地道に展開していく予定だと言います。一方で希望も見えました。

中野氏 「今回、MatchUpsをローンチして1度に5点ものNFTを購入してくれたファンがいました。それほど熱狂的な方がることがわかったのは嬉しい収穫です。口コミがいちばんのマーケティングツールですから、今後はコミュニティを充実させていきたいですね」

NFT SCENESとしては、スポーツ業界にもっともっと貢献していきたいと考えていると鈴木は言います。将来はスポーツ界にも、デジタル化の波が到来するのは間違いありません。

鈴木 「Bリーグの構想では、新しい体験ができるアリーナ建設を推進し、入場や購買時に顔認証システムを導入したり、あらゆるアングルから撮影できる技術が導入されたりなど、より一層のデジタル化が押し進められると想定されます。日本のプロスポーツ界の中でもかなり最先端の取り組みを進めているリーグだと思います。

イグニション・ポイントとしてもまだまだアイデアは持っています。選手をスマホのカメラでかざしたら、その選手が履いているバスケットシューズを直接購入できるなど、ECともつなげられる可能性があります。NFTの購入者限定でイベントを開催できるようになるかもしれません。

『スポーツのデジタル化といえばイグニション・ポイント』と思ってもらえるように、現状のファンニーズを汲むだけではなく、将来の環境に合わせたファンニーズを汲んだ上で、スポーツ界のデジタルソリューションをご支援していければと思います」

NFTはあくまで、デジタルの入り口。ファンとチームがつながった後に、デジタルでいかにつながり続けられるかを考えて、イグニション・ポイントは取り組んでいきます。

(記事の内容は、2022年11月、取材当時のものです)

MatchUps(マッチアップス)

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