なかなか進まないデジタル活用。
みんなの旗印となる「まちづくり推進戦略」を策定

盛岡市
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、デジタル活用への重要性と機運が大きく高まった地方自治体。イグニション・ポイントが支援した岩手県盛岡市も例外ではありませんでした。盛岡市 市長公室 都市戦略室の熊谷明悦氏をお迎えし、イグニション・ポイントからはシニアマネージャーの鈴木を交えて対談します。

話し手
盛岡市 市長公室 都市戦略室 熊谷明悦氏

聞き手
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業本部 ストラテジーユニット シニアマネージャー 鈴木

課題──街が衰退する危機感。デジタル活用の可能性を模索

盛岡市

感染症が猛威を振るう2020年、新たな生活様式や持続可能な社会を実現する方法を多くの自治体が模索していました。

熊谷氏「盛岡市としても将来どうしたらいいものか、漠然と悩んでいました。感染症の拡大をきっかけにして、とくに観光客とビジネスパーソンの来盛が激減しました。また、時代に取り残されてしまう不安を感じつつも、デジタルへの対応を行政としてどうするべきか、模索していました。そこで、市として将来の方向づけを行うために、まずは全国自治体と比較した盛岡市の現況や立ち位置を調査・分析する必要があったんです」

とりわけ商業と観光業が衰退してしまう危機感を抱いていた盛岡市。イグニション・ポイントは22年3月までの約2年半、支援させていただくことになりました。とはいえ、地方行政としてコンサルタントに業務依頼を行うケースはまだまだ珍しいのだとか。

熊谷氏「地方行政がコンサルタントに業務を依頼するのは、まだまだ庁内的に理解を得づらいのが現状です。それでも私は、行政こそコンサルタントにお願いすべきだと個人的に考えています。というのも、現在はサービスを受ける市民や関係者の多くが情報をすでにたくさん持っています。そのため、行政の人間の頭と情報の中だけで政策を考えても、納得してもらえない可能性が高いと考えました。

また、最近では新しい事業を推進する際、『証拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence Based Policy Making)』によって周囲の理解を得なければ前に進められません。その意味でも、行政業務こそコンサルタントに入ってもらい、多角的な視点で政策立案を検証してもらうべきだと考えています

ではなぜイグニション・ポイントだったのでしょうか?決め手となった出来事がありました。

決め手──行政に深く精通「安心できる提案内容」を高く評価

盛岡市

コンサルタントの選定にあたり、コンペ形式のプロポーザル(企画・提案)が行われました。イグニション・ポイントを選んだ決め手は「行政への理解度」だったと言います。

熊谷氏「複数社のコンサルティングファームから提案をいただいた中で、イグニション・ポイントさんの行政の仕事への理解度は高く、かなりの安心材料になりました。行政の仕事は納期さえ守ればいいものではなく、定期的な中間報告や特殊なタイミングでの報告、精算、必要書類の提出など、通常のルールではない特殊な事情が多い。その点を深いところまでわかってくださっていて、とても安心できる提案内容になっていました。つまり、行政の事情を理解した上で、必要な提案をしてくれた。その能力値の高さが決め手でした

「行政への理解度」の点で強みを発揮したのが、メインアカウントを担当した鈴木の経験でした。

鈴木「私は前職で建設系コンサルタントを経験していたため、行政機関とは10年間にわたる折衝の経験がありました。その経験を踏まえた提案内容を評価していただきました」

取り組み──悪い部分はわかっている。だから、「良いところを伸ばす戦略」

盛岡市

約2年半、3年度にわたりイグニション・ポイントでご支援をさせていただく中で、初年度(20年10月〜21年3月)はまず、現状の調査・分析から行いました。

熊谷氏「大きな観点から、当時のコロナ禍での盛岡市を分析してもらいました。デジタル戦略の必要性はまだぼんやりしつつも、将来はどんなことが必要なのかを調査・分析で探るフェーズでした。具体的には、全国の動向や統計資料などを比較して盛岡の現在地を洗いだし、足りている部分と足りていない部分を分析するデスクトップ調査を行いました。

オンラインで調査結果の報告を受けたり、月に一度ほど、鈴木さんをはじめ多くのイグニション・ポイントの方に来ていただいたり。好き勝手にさまざまな要望をしましたが、逆に言うと私たちは方向づけを行っただけで、どの切り口でどう分析をするかはすべて信頼してお任せしていました」

2年目は、持続可能な盛岡の街づくりの観点からより詳しい調査を実施。さらに、街づくりの将来を支える若手人材──盛岡市の若手職員や民間の社員の方に向けて、ビジネスやデジタルの講習会を行いました。

熊谷氏「知識を詰め込むだけではなく、私たちの立場に立って人材育成など、盛岡の成長のために必要な活動に幅広く取り組んでいただきました。中でも、デジタルの勉強会では技術の活用法だけではなく、新規事業の提案での上司の説得法や、どのように要件をまとめると自分たちのやりたいことをうまく伝えられるのかなどを伝授いただき、その内容も行政の業務への理解度が深いものでした」

鈴木「市内のビジネスパーソン向けに、ロジカルシンキングやコンサルティングスキル、Excelの活用術、デザイン思考などの講座も開催し、多くの方に参加いただくことができました。そこでは、座学というよりも明日から使える知識を伝えることを主眼に置いていました」

そして3年目は、それまでの調査・分析を元に、デジタルでめざすべき盛岡市の戦略を策定しました。

熊谷氏「やはり戦略立案が最も難所だったのではないでしょうか。業務途中で、内閣府によるデジタル田園都市国家構想との整合性を合わせたり、市民の声の反映を重視する方針により急遽、市民向けアンケートや市民ワークショップを開催して、内容を戦略に反映させたり。最後のほうはイグニション・ポイントさんのスケジュールも大変だったと思います」

中でも、もっとも難航したのが戦略立案の際のKPIとコンセプトの策定でした。

熊谷氏「かなり紆余曲折を経て練り上げましたね。地元の学術関係者、商工会議所に参画いただいた外部の有識者会議、市の幹部職員、外部委員会、市議会などの意見を取り入れつつ、誰が見てもわかりやすいコンセプトを打ち出すのが難しかったです。イグニション・ポイントさんに盛岡の文化や特性などを踏まえた多くの案を出してもらいながら、最終的には、皆さんの想いが詰まったものになったと思います」

イグニション・ポイントはこの局面を「盛岡の発展」に主眼を置いてハンドリングするように意識したと振り返ります。

鈴木「盛岡市に限らず、地方自治体はどこも課題が多く、すべての課題を束ねるとネガティブな側面が強調されてしまいます。悪い部分をすべて直しましょう、では長所が伸びず、よい戦略になりません。そこでコンセプトやKPIを設定する際に『盛岡のよいところを伸ばす』考えをベースに戦略をまとめる方向で進めていきました。

市民の皆さんは、市のどこに課題があるのかはすでに理解されているので、盛岡市の課題を明確に言語化するようなコンセプトにするよりも、外部目線でみた盛岡の長所を伸ばしたほうが今後の市の発展につながるのではないかと考えたんです」

成果──策定した戦略からすでに5つの新規事業が発足

盛岡市

戦略立案が言語化された盛岡市デジタル化によるまちづくり推進戦略。この五カ年計画の中で具体的なKPIとコンセプトが策定され、イグニション・ポイントの支援は一区切りを迎えました。

熊谷氏地元の人間ではわからないような盛岡の良さをキレイに言語化してもらいました。私たちだけの視点だけだったら、どうしても古き良き伝統ある盛岡、のような言葉で片付けてしまいがちです。イグニション・ポイントさんには客観的な視点から、悪い点の分析と言語化もしていただきました。それがとても腑に落ちたし、自分たちだけでやっていたらすごく時間がかかったと思います」

鈴木「庁内の方々へのアンケートやヒアリング、市民の方々とのワークショップを通じて、お年寄りやサラリーマンから女子高生まで幅広い方々の話を聞きつつ、さまざまなデータを取ってみると、地域の良い面がたくさん出てきました。その結果、KPIを数字で示しつつ、コンセプトや戦略には盛岡市の良いところを伸ばそうという想いが込められていると思います

また、成果物としてデジタル戦略を示せたことは、盛岡市にとっての大きな一歩となりました。

熊谷氏「盛岡市はこれから、人口減少で労働力が減っていく中で、古き良き盛岡を残しつつ、デジタルを活用して持続可能な都市として発展していく必要があります。これまでデジタル施策は、積極的に行ってきませんでした。このデジタル戦略の旗印のもと、今後は5つほどの新規事業を立ち上げていく予定です。

イグニション・ポイントさんに支援いただいて完成したデジタル戦略では、デジタル技術の実装化にあたり、必ず庁内でワーキンググループを作る決まりがあります。つまり、各部署が単発で似たようなデジタル施策を立てないために、農業や観光業、商業などさまざまな分野の部署が横断してネットワークグループを形成しないと、補助金など予算を付けられないようなスキームを組み込んであります。すでに5つのネットワークグループが立ち上がっています。

デジタルの枠を超えた課題もありますし、すでにあるサービスをやめる判断や、そもそも行政が取り組むべきことなのかという深い議論が起こる転機になればと思っています」

イグニション・ポイントのメンバーの働きに対して、高評価をいただきました。

熊谷氏「イグニション・ポイントさんは、とにかくフットワークが軽く、レスポンスも早くて、いつもスケジューリングを意識して対応してくれるので安心できました。行政の仕事では、突発的に上長から進捗確認を求められるので、イグニション・ポイントさんの、長いスケジュールと短いスケジュールを常に意識しながら結論を提示してくる進め方はとても安心できましたね。

加えて、私たちの立場を最大限理解した上で先回りして提案をくれて。本当にコンサルタントに頼んだ意味があったと感じていますし、いい戦略ができあがったと心から思っています。今後は外部の委員として、さまざまなご意見をいただきたいです。市の発展のためにより一層、盛岡のファンになっていただき、今後もお付き合いをいただけるとありがたいです」

( 記載内容は2023年12月時点のものです)

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